従業員の福利厚生費2
※文章は2001年10月〜11月の法律を元に記述されています
前回からの続きとして、会社が自社の従業員等に対する福利厚生費の支出をした場合における、課税関係について述べていきます。
(7)社員旅行
少し昔まではどこの会社でも広く行われていたが、最近は従業員からあまり喜ばれなくなったものに、社員旅行があります。レジャ−の多様化、さらに旅行は気の合った仲間だけで行ってこそ楽しいのであって、会社の人間関係を引きずり気を使いながら旅行しても疲れるだけという、特に若い世代の「社員旅行離れ」が影響しているのでしょう。そんな世代の声に押されてか、北海道、九州、沖縄といった遠隔地に行ったり、海外旅行を企画して、若手従業員の参加をうながす会社もあるようです。
社員旅行の費用を会社が支出した場合には、次の要件を満たせば厚生費として損金(必要経費)に計上でき、参加した従業員や役員側も課税されることはありません。要件とは、ひとつは全社員の2分の1以上が参加すること、もうひとつは4泊5日以内の旅行であること、さらに付け加えれば、旅行費用の会社の負担額が、社会通念上非常識なほど高額ではないことです。
全社員の2分の1以上の参加については、旅行を全社一斉に行うのではなく、支店・工場ごととか、部・課ごとに行う場合には、その支店・工場・部・課の人数の2分の1以上が参加すればよいのです。参加者が2分の1に満たない場合や、2分の1以上の参加があっても不参加者には旅行の代わりに金品を支給する場合は、この旅行費用は従業員に対する給与として取り扱われ、源泉税の徴収義務が生じますし、従業員の翌年の住民税にも跳ね返ります。
4泊5日以内とは、現地の滞在日数で計算します。夜行寝台列車の中とか、飛行機の中で日付変更線を越えた場合には、1泊にカウントしません。4泊5日あれば、東南アジアや中国、ハワイへの旅行も可能です。十数年昔、社員旅行は2泊3日以内で国内旅行に限るという通達がありましたが、海外旅行に行って厚生費経理を否認された会社が裁判を起こし、国側が全面敗訴したため、逆に通達が変更されました。中国、台湾、韓国等ならば、北海道や沖縄よりも安く行ける場合がありますので、当然の判決でしょう。また、5泊6日の旅行に行った場合には、オ−バ−した1日分の費用だけが否認されるのではなく、旅行費用のすべてが給与課税されてしまいますのでご注意ください。
なお、2分の1以上参加で4泊5日以内の要件を満たしていても、会社負担が非常識なほど高額な旅行は厚生費として認められず、従業員側が給与課税されてしまいます。金額ベ−スで、従業員一人あたりの会社負担額が10万円ないし最大でも15万円以下になるようにすれば、まず否認はできないでしょう。これ以上かかるようならば、従業員から参加費を徴収して会社負担を抑えればよいのです。まれに社員旅行に社員の家族を招待する会社もありますが、この場合、家族分の費用は本人から徴収する必要があります。家族分の費用を会社が負担した場合には、給与課税されますのでご注意ください。
また、社員旅行以外にも、従業員に対する福利厚生として、従業員を観劇に連れて行ったり、社内運動会を行ったり、従業員の野球部・囲碁将棋部などのクラブ活動への補助金、忘年会、新年会、歓送迎会などの支出もあるでしょう。この場合も、社会通念上常識的な金額であれば厚生費として損金経理ができます。注意点としては、忘年会や新年会は、会社全体で開催する場合は全社員、支店・部・課ごとに開催する場合は支店・部・課の全員に参加を呼びかけねばならず(もちろん本人の都合による欠席者が出るのはかまわない)、役員とか管理職など特定の人だけを対象にしたものは厚生費にはならず、給与課税されるかまたは社内交際費になります。
もうひとつ、忘年会・新年会等に、従業員以外の取引先などを招待した場合も厚生費にはなりません。この場合、取引先分の費用だけでなく、従業員分も含めた費用の全額が交際費となりますので、くれぐれもご注意ください。法人にとって交際費は、厚生費とは異なり、損金算入限度額があるので不利になります。
(8)社宅
会社が従業員や役員のために社宅を用意することは、大企業ではかなり広く行われています。公務員も、安い家賃で恵まれた官舎が用意されています。しかしながら、日本の企業数の99%以上を占める中小零細企業には、とてもそんな余裕はありません。従業員側も、社宅の有無は可処分所得に多大の影響を受けます。中小零細企業の従業員と公務員・大企業の従業員との実質賃金のギャップは、こんなところにもあるのです。
従業員や役員が社宅に入居した場合の家賃(社宅入居料)は、一般の賃貸住宅・アパ−トの家賃と比べて、かなり廉価に設定できます。しかし、まったく無料にすると、従業員や役員側は経済的利益を受けたものとされ、その金額が給与として課税され、源泉税の徴収が必要になってしまいます。
この場合、従業員の社宅であれば、税務当局が所得税基本通達36-45から36-47に定めている算式で計算した「通常の賃貸料」の50%以上の金額の入居料を徴収していれば、税務上の問題は生じません。この通達にいう「通常の賃貸料」の50%に満たない入居料しか徴収していない場合は、その金額と実際入居料との差額が給与として課税され、源泉税が生じます。なお、通達の算式で計算した「通常の賃貸料」は、賃貸市場における世間相場の家賃よりもはるかに安くなります。公務員が2DKの官舎に数千円の家賃で入居していても給与課税されないのは、通達の算式による「通常の賃貸料」が、実際には「通常よりもきわめて安い賃貸料」になっているからなのです。
この社宅家賃の規定は、社宅が社有物件であろうと、外部からの借上げ社宅であろうと同じです。借上げ社宅の場合、会社が大家に払っている家賃の50%以上を従業員から徴収するのではなく、通達算式の50%以上を徴収すれば足りるのです。したがって、仮に会社が大家に払っている家賃の5分の1以下しか従業員から徴収していなくても、通常では給与課税はされないのです。
なお、役員に対する社宅の場合は、徴収すべき社宅入居料が従業員の場合よりも数倍高くなります。所得税基本通達36-40、36-41で定める「通常の賃貸料」と、実際に徴収した社宅入居料との差額がその役員に対する給与として課税されますが、この通達の算式の「通常の賃貸料」ですら、世間相場の家賃よりはまだかなり安い金額で、通常世間相場の3分の1以下になりますので、社宅に入居すれば役員本人にとってかなり有利です。但し、役員に対する社宅で床面積が240u以上であるとか、プ−ルなどがある豪華社宅の場合は、通達の算式ではなく、賃貸市場における世間相場の家賃を徴収する必要が生じますのでご注意を。
社宅それ自体の貸与ではなく、住宅手当として金銭で支給した場合には、その金額は給与とされ源泉税がかかりますので、社宅よりも不利といえます。しかし、近年の社員は、社宅住まいで気を使い、家族までもが会社の上下関係に縛られることを嫌う傾向があるようです。
(9)金銭の貸付け
会社が従業員や役員に金銭を貸付けた場合には、原則として、会社はお金を貸した従業員・役員から、通常の金利を徴収しなければなりません。もしも通常の金利を徴収せず、無利息または低い金利で貸した場合には、通常の金利と実際の金利との差額が、その従業員・役員に対する給与として課税されます。但し、その差額の金額が年間5,000円以下であれば、課税関係は免除されます。
なお、従業員や役員が、火災・風水害などの災害とか、本人や家族が病気・けがで入院したなどのやむを得ない理由により、一時的に多額の生活費が必要となったため会社がお金を貸した場合には、その理由と金額が不合理なものでない限り、無利息や低利貸付けであっても課税関係は生じません。
また、従業員の住宅取得に際し、会社が従業員に住宅取得資金を貸した場合には、年利1%以上の利息を徴収することが必要で、1%の金利を取れば給与課税が生じません。なお、この住宅取得資金の低利貸付を受けられるのは従業員だけで、役員には適用がありませんのでお間違いなく。現実には、社員が住宅を取得する時にお金を貸してくれる余裕があるのは大企業だけで、中小零細企業の従業員はただ指をくわえて羨望のまなざしで見つめるしかありません。誠にうらやましい限りです。
(10)自社商品の値引き販売
会社が自社の製品や商品を、従業員や役員に値引き販売をすることも広く行われています。この場合、従業員等への販売金額が、通常の外部取引先に対する販売価格の70%以上で、かつ、会社の仕入価格(製造原価)以上の金額であれば、課税関係は生じません。この金額よりも安く販売すれば、その実際販売金額との差額が、給与として課税されます。
なお、試供品の配布とか、福利厚生の一環として金額的に僅少な自社製品を時折り無償配布する程度とか、売れ残り商品で換金不能のため破棄するしかない商品を、随時無償配布する程度であれば、課税関係はまず生じませんのでご安心を。
余談ですが、とあるコンド−ム製造会社は、新製品開発に際し、従業員に製品を無償配布して使い心地のアンケ−トを提出させるそうです。従業員にとってこれは利益というべきなのか、それとも恥辱というべきなのか。
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