従業員の福利厚生費1
※文章は2001年10月〜11月の法律を元に記述されています
今回と次回の2回に分けて、会社が自社の従業員に対する福利厚生費を支出した場合に、会社の損金(必要経費)として認められる限度について触れることとします。
従業員に対する福利厚生は、公務員と民間企業とでは大差があり、民間企業の中でも大企業と零細企業とでは雲泥の差があります。サラリ−マンの失業率が5%に達し、中高年社員のリストラ解雇が日常茶飯事となり、大学や高校の新卒者ですら職にあぶれる戦後未曾有の大不況下、中小零細企業では企業の維持がせいいっぱいで、社員の福利厚生まではとても手が回らないのが実情です。しかし税法上において、どのような厚生費がどこまで損金として落ちるかを知っておいても決して損はしません。不況が永久に続くことはないのですから。
(1)社会保険料
従業員が加入する健康保険、厚生年金の保険料は、従業員本人と会社が各2分の1ずつ負担します。また、雇用保険料は4割弱を従業員が負担しますが、6割強が会社の負担となりますし、労災保険料は全額が会社負担です。この法律に基づく会社負担分は当然に会社の損金(必要経費)として落ちます。
問題は、会社が従業員負担分の全部または一部を負担した場合です。この場合、会社が負担した従業員負担分は、税務上は会社から従業員への給与として扱われます。したがって会社はその金額に対応する源泉所得税を給与から天引きして国に納付しなければなりませんし、一年遅れで従業員の住民税にも跳ね返ります。
えっ? 従業員負担分の社会保険料までかぶってくれる気前のいい会社などあるはずがないって? 確かにそうですが、会社が給与計算を間違えて、従業員の給与から天引きする社会保険料を過少に計算し、差額を会社がかぶってしまうことは中小企業ではめずらしくありません。もちろんこの逆に、従業員の給与から過大に天引きしてしまうこともしばしばあります。会社のくれる給与明細にミスがないかチェックしないと、意外なところで損をしていることもありますよ。
(2)慶弔費
会社が従業員や役員の慶弔禍福や会社の祝事にあたって、金品を支給することは広くおこなわれています。従業員の結婚、出産などの祝金やお祝いの品物、永年勤続の記念品、会社の創業何周年記念などの行事による記念品、入院、火災や風水害などの見舞金、親族または本人の死亡によるお香典などです。
この場合、結婚や出産の祝金、入院や災害の見舞金については、社会通念上常識的な金額の範囲内であれば会社側は厚生費として損金に計上できますし、受け取った従業員側も税金はかかりません。常識的な金額がいくらかということは、税法には書いてありません。もしも金額を書けば、逆用する会社がでることを恐れているのでしょうか。あくまでも世間一般の常識で判断するしかありません。なお、会社の就業規則や慶弔金規程で支給額を決めてあり、それに基づき支給する場合ならば、その規程が課税回避を目的とした不自然非常識なものでない限り、税務当局がその慶弔金の厚生費処理を否認することはできないでしょう。なお、社会通念上常識的な金額を超える祝金、見舞金の支給があった場合には、従業員側では給与として課税され、源泉所得税と住民税がかかります。
また、永年勤続記念品については、おおむね勤続10年以上の従業員を支給対象とし、支給回数2回目以上の人は前回の支給からおおむね5年以上の間隔がある場合において、記念品の支給、または旅行・観劇等への招待をし、かつそれが社会通念上常識的な範囲内であれば、会社側は厚生費として損金に計上できますし、従業員側も課税されません。ただし永年勤続のお祝いとして現金を支給された場合は、従業員側で給与として課税されます。
創業何周年とか本社ビル完成記念などの記念品についても、社会通念上記念品として常識的なもので、創業何周年記念の場合はおおむね5年以上の間隔で支給され、かつ処分見込価額が1万円以下の品物の場合は、厚生費処理ができます。ただしこの場合においても、現金支給の場合には従業員側で給与として課税されます。
香典の場合は、従業員や役員の本人が死亡した場合と、親族の死亡の場合とに分けて述べます。
まず、従業員・役員の親族の死亡による香典の場合には、それが社会通念上常識的な金額であれば、会社側は厚生費として損金経理ができ、従業員・役員側も課税されません。
次に、従業員・役員本人の死亡による弔慰金(香典)の場合です。業務上による死亡の場合、つまり労働災害かそれに準じる死亡であれば、死亡前の月額給与の3年分以内の金額の弔慰金であれば、会社側は厚生費として損金経理ができ、従業員・役員側も課税されません。業務上以外の理由による死亡の場合(つまり、私傷病など業務と無関係の死亡の場合)には、死亡前の月額給与の6箇月分以内の金額の弔慰金であれば、会社側は厚生費として損金経理ができ、従業員・役員の遺族にも相続税や所得税がかかりません。なお、退職金はこの弔慰金(香典)とは別枠で支給できます。このように本人が死亡した場合には、かなりの額の弔慰金を非課税で渡せます。遺族の生活保障を考えてのことでしょうか。
(3)宿日直料
従業員が夜間の宿直や休日の日直を当番として行ったことにより、宿直料や日直料が支給された場合には、宿直や日直1回につき4千円までの金額ならば、会社側は厚生費として損金経理ができ、従業員側も課税されません。1回4千円を越える部分の金額は、給与として源泉所得税や住民税の課税対象となります。なお、宿日直をしたことにより食事が支給される場合には、1回あたり4千円からその食事代を控除した残額が非課税となります。
ただし、休日や夜間の留守番を含めた勤務を条件で雇用された社員や、宿日直をその社員の通常の勤務時間内の勤務として行う場合とか、宿日直を行ったこと対し代休が与えられる場合には、この4千円の非課税枠はなくなり、全額が給与として課税対象となります。
(4)食事代
従業員が残業や休日出勤をしたため、もしくは宿日直当番をしたことにより食事を支給した場合には、会社側は厚生費として損金経理ができ、従業員側も課税されません。なお、残業・休日出勤の場合は、あくまで食事として現物支給された場合のみ非課税となるのであって、食事代として現金を渡されれば源泉所得税や住民税の課税対象となります。ただし宿日直の場合には、食事の現物に代えて現金を支給された場合でも1回あたり4千円まで非課税であることは前述した通りです。
また、従業員や役員に対し昼食を支給している場合には、本人から食事代の半額以上を徴収しており、かつ会社負担額が月額3,500円以内であれば、会社側は厚生費として損金経理ができ、本人側も課税されません。なおこの場合の食事の金額は、弁当購入や出前、外食であればその支払金額で評価されますが、社員食堂で調理して支給する場合ならばその直接の材料代だけで計算できます。社員食堂の場合は賄いの人件費や水道光熱費を除外して計算できるので、会社負担が月額3,500円としても同額を社員から徴収すれば、刑務所の食事よりははるかにデラックスな食事を提供できるでしょう。
(5)制服等
従業員が職務上着用を必要とされる制服や、社内のみでしか着用しない事務服、作業服を支給されても、会社側は厚生費または消耗品費として損金経理できますし、従業員側も課税されません。
たとえば、不動産会社が全社員に会社の名前入りのブレザ−を支給しても社員側は非課税ですが、勤務時間外にも着用できる背広を支給したとなれば給与として課税されてしまいます。私の個人的見解ではサラリ−マンの背広は職務上の必需品だと思うのですが、税務当局はそうは考えていないのです。営業マンがカジュアルウェアで顧客廻りをしても、相手にしてもらえない場合が多いと思うのですがネ。
(6)福利厚生施設
会社が、従業員や役員の福利厚生のため、保養所やスポ−ツクラブなどの施設の運営費を負担した場合には、その会社負担による経済的利益が社会通念上著しく多額である場合を除き、会社負担額は厚生費等として損金経理ができ、従業員や役員側も課税されることはありません。
ただし、その保養所やスポ−ツクラブ等の利用が全社員を対象としたものではなく、役員だけとか、一部の特定の社員だけしか利用できない場合には、その経済的利益を受ける者が給与として課税対象とされてしまいます。したがって、税務調査対策として一般社員が広く利用しているという利用実績の記録を残しておくことが肝要です。
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