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所得税申告書の作成でドジを踏んだ場合

※文章は2000年3月の法律を元に記述されています

所得税の確定申告も終わり、マスコミを賑わすキャリア組お代官さまの、優雅な生活を保証するための年貢米の供出(?)を終えた個人事業者の皆さんは、やれやれとほっとひと息ついたかも知れません。私ども税理士は、3月15日までは月月火水木金金、睡眠も満足に取れず、皮膚もカサカサに乾き、ウ○○も固体化せずに液体で出てくるような生き地獄を味わう訳で、ようやく刑期を終えた囚人と同様、つかの間の解放感に浸っている時期であります。
さて、ようやく落ち着きを取り戻して、税務署に提出済の税務申告書をながめていたら、とんでもないポカに気付くことがあるかも知れません。正直な話、税理士でも、従業員や自分の作成した申告書のミスを、提出後に気付くことがないわけではありません。提出前には十分チェックしたつもりでも、です。
今回は、このように申告後にミスを発見した時にどうすればよいのか、その対処法について述べてみましょう。

(1) 税金を過少に申告してしまった場合

所得税確定申告において、何らかのチョンボ(悪意はなかったと信じます。)により、正しい税額よりも、納付税額を少なく申告してしまった場合はどうすればよいのか、という問題です。還付申告の人であれば、本来の還付金よりも多くの還付金を請求してしまった場合です。
この場合、納税者の側から「修正申告」をして、過少納付となっている税金を納付するのが正しい対処法です。当初の申告が間違っていたため、修正した申告書を提出する、ということです。修正申告書は、7年前のものまで提出することが可能ですが、実務上では3年前のものまでを出せば、それ以上のことを言われることはありません。
この過少申告のケ−スでは、ついつい出来心が芽生えてしまう人もいるのではないでしょうか。つまり、税務署が気付いて何か言ってきたり、調査に来て見つかってしまったならば、あきらめて差額の税金を払うが、税務署が気付かなかったら儲けものなので、そのまま自分も気付かなかったことにしよう、という悪魔のささやきに負けてしまうケ−スです。
この悪魔のささやきに乗ってしまった場合には、もしも本当に税務署が気付いて呼び出しのハガキや電話をよこしたり、あるいは税務調査に来て見つかってしまった場合にはどうなるのか、ということを覚悟に入れる必要があります。
まず、当初の申告により納付した税額と、修正申告または更正処分により計算された正しい税額との差額(増差税額)を納付することはもちろんです。その追加納付する増差税額について、さらに10%ないし15%の「過少申告加算税」が追徴されます。10%と15%の違いは、増差税額のうち、期限内申告税額または50万円のいずれか多い金額の範囲内ならば10%、それを超える部分の税額に係る過少申告加算税は15%とされます。
それだけでは済みません。さらに、増差税額に対して、本来の法定納期限から実際の納付までの期間について、年14.6%の日割計算による「延滞税」が徴収されます。ただし延滞税は、法定納期限から2ヶ月間に限り、7.3%または公定歩合に4%を加算した割合(現在ならば4.5%)のいずれか低い割合の日割で計算されます。2ヶ月を過ぎれば原則通り年14.6%の日割計算という、マチ金並みの高金利です。
なお、無申告の人が、税務署から督促を受けて期限後申告書を提出したり、決定処分を受けた場合には、その税額の15%の「無申告加算税」を追徴されます。
また、納税者が意図的に仮装・隠ぺいをしたことが税務調査で発覚した場合には、過少申告ならば増差税額の35%、無申告ならば40%という、泣く子も黙る「重加算税」を追徴されます。なお、重加算税を課せられた場合、延滞税は合わせてダブルで課せられますが、過少申告加算税と無申告加算税だけは免除されます。
上記のように、過少申告には恐ろしい罰金が待ち構えていますが、一方で、税務当局は正直者のためのアメも用意しています。すなわち、過少申告の人が、税務署から何らかの連絡を受ける前に、自主的に修正申告書を提出したときは、延滞税だけは取りますが、過少申告加算税は免除されます。もちろん重加算税もかかりません。無申告の人でも、税務署が何か言ってくる前に自主的に期限後申告書を提出した場合、延滞税は取られますが、無申告加算税は15%ではなく、5%にまけてもらえます。むろん重加算税はなし。税務署からの連絡とは、税務調査だけでなく、ハガキや電話も含まれますので、このアメに飛びつくならば、とにかく急ぐ必要があります。
過少申告(または過大還付)に気付いた場合、このようなアメとムチがあることを十分検討した上で、その対処法を検討すべきです。
釈迦に説法かも知れませんが、申告書を見ただけですぐに分かるミスの場合は、一刻も早く自主的に修正申告を出す方が賢明です。また、税務署が資料箋を持っているものや、その可能性が高い項目についてミスがあった場合も、自主的な修正申告をお勧めします。地代家賃収入ならば、賃借人が法人や事業を営む個人であれば、隠したところで、賃借人が税務署に提出する法定調書や申告書からバレてしまいますし、保険の満期金も、100万円以上のものは保険会社から税務署に調書が出ています。建設業や運送業の下請業者であるならば、元請業者から税務署に資料箋が提出されている恐れもあります。これらに該当しなくても、税務署が貴方の取引先に調査に行ったときに、貴方との取引の資料箋をつくることがあります。また、貴方が税務調査を受ける可能性についても考慮に入れるべきです。前回の税務調査はいつだったのか、そろそろ来る周期ではないのか、とか、前年と比較して売上や粗利、所得が大幅に変動していないか、同規模の同業者と比べて不自然な申告書を出していないか、そのため税務調査を受けやすくなっていないか、などです。消費税の免税業者に該当する程度の売上しかない場合は、よほど不自然な申告をしない限りめったに調査には来ませんが、前述した資料箋などから過少申告がバレることもあるのです。
正直者になり財布は細っても枕を高くして眠るか、キャリア組のお役人様のマネをして利己を優先して太ることを考えるか(ボロを出したらひどい目にあうが)、判断するのは貴方です。聡明な貴方はどちらを選びますか?
なお、修正申告書の用紙は税務署でもらえますが、税目により用紙は異なりますし、所得税の場合は、青色白色の区分により用紙が違います。
上記の過少申告の事項は、所得税だけでなく、法人税や消費税などにもあてはまります。

(2) 税金を過大に申告してしまった場合

所得税確定申告において、税金を過大に申告してしまい、本来払わなくてもよい税金を払ってしまった場合にはどうすればよいのか、という問題です。還付申告の人ならば、還付金請求額を過少に申告してしまった場合です。所得税申告書は、市区町村役場に回され住民税の計算にも使われますので、翌年の住民税や国民健康保険料までもが自動的に過大納付になってしまう可能性があるわけで、ただごとではありません。
「税金を多く申告するなんて、おめでたい奴よ。」と笑っている貴方も、自分が知らないだけで、実は過大申告をしているかも知れません。私の経験では、とくに税理士に依頼していない人に過大申告が多く見受けられます。税法の知識の有無と頭のひねりかたひとつで、税金とは合法的に大幅に違ってくるものなのです。もちろん、時々新聞記事に登場する、「税務当局に顔がきく」と自称する脱税請負人などに依頼することなく、です。(新聞記事になった脱税請負人に依頼した人は、本来の税金よりも高い料金を脱税請負人に払っていたようで……。)
さて、税金を過大に申告してしまった場合に取るべき道はただひとつ、「更正の請求」を税務署に提出すればよいのです。「更正の請求」とは、間違えて過大申告をしたため、税務署で訂正して過大納付分の税金を還付してくれ、という手続です。
この場合注意すべき点は、更正の請求は、法定申告期限から一年で時効となり、請求する権利がなくなってしまうことです。H12年3月15日が申告期限であったH11年分所得税の更正の請求は、一年後のH13年3月15日までに提出しないと、時効により権利が消滅してしまうわけです。したがって更正の請求は、急いでやる必要があります。
更正の請求書の用紙は税務署でもらえますが、税目により用紙は異なります。更正の請求書には、正しい所得金額や税額のほかに、更正の請求の内容が正しいことを証明できる書類のコピ−を添付することをお勧めします。(但し、証拠書類の実物は税務調査に備えて手元に残しておき、提出は必ずコピ−にすること。)更正の請求をした場合、実際に税金が還付されるまでの期間は3ヶ月前後かかるものと思ってください。税務署は、更正の請求の処理はなぜか後回しにするらしいのです。また、事業所得や消費税の更正の請求をした場合、金額や内容にもよりますが、税務署が税務調査に来る確率が非常に高いので、覚悟が必要です。
さて、法定申告期限から一年以上経過してから、過去の申告の過大納付に気付いた場合はどうすればよいでしょうか。更正の請求は、すでに時効が成立しており間に合いません。
この場合、所得税であるならば、税務署に「更正のお願い」を提出してみたらよいでしょう。税法の条文にこのような規定があるわけではありませんが、納税者の側からかかる請願があった場合、それが正しいものであるならば、税務署が職権で「減額更正」を行い、過大納付の税金を還付してくれることが、決して少なくはないからです。納税者の側からの更正の請求の期限は一年ですが、税務署側からは、法定申告期限から5年間ならば、職権で減額更正ができるのです。但し、あくまでも更正の請求は時効ですから、税務署側がやってくれなければ、納税者側から打つ手はなく、むろん裁判に訴えても負けてしまいます。
所得税の「更正のお願い」は、更正の請求書を書いた上で、その「請求」の文字を「お願い」と書き直し、別紙に嘆願書を作成し、その理由と経緯を書きます。また、過大申告をして過大納付になったしまったことを証明できる資料のコピ−も添付します。いくら時効とはいえ、税務署員も鬼ではありません。かなりの確率で減額更正をしてくれます。但し、事業所得や消費税に係るものは、税務調査に来る覚悟が必要です。
法人税で過大申告をしてしまい、更正の請求の期限が経過してしまったらどうすればよいのか、この場合は奥の手があります。「前期損益修正損」という科目で、法人の損金(経費)に計上してしまい、決算書に明記し、科目内訳書にもその内容を記載するのです。別紙の嘆願書と、証拠書類のコピ−を法人税申告書に添付してもいいでしょう。法人税は所得税とは異なり、累進税率ではないため、2期以上前の経費を当期の損金としても、事業年度を通算した納付税額の累計では大差がないわけです。前期損益修正損の金額が大きければ、税務署は必ず税務調査に来ます。あとは、調査官との折衝次第です。前期損益修正損を計上した事業年度は修正申告に応じ、前期損益修正損をないものとして追加税金を払ったとしても、過大申告をした事業年度について税務署が職権で減額更正をして、過大納付の税金を返してくれるよう約束できれば、会社側としては成功です。但し、過年度の過大申告の理由が、粉飾決算による仮装経理など、会社側の恣意的なものであった場合は、過年度分の減額更正は時効を理由に拒否される可能性がありますし、仮に減額更正をしてくれたとしても、過大納付の税金は直ちに還付されず、向こう5年間に納付することとなる法人税と相殺になります。この場合、裁判で争っても勝ち目はありません。

(3) 最後に一言おしゃべりを……

税法とは、税務当局にとって、一方的に都合のよい(虫のいい)ものになっているんですね。納税者が過少申告をした場合、税務当局側では法律上は7年間、実務上では3年間(特に悪質な場合は5年間)、更正処分を行い、税金を追徴できます。しかし、納税者がミスによる過大申告をした場合、納税者側から納めすぎの税金を還付してくれ、と請求する権利は、わずか一年で消滅してしまうのですから。これでは、国家によるネコババの法認ではないでしょうか。

バックナンバー
001)年末調整あれこれ
002)同一生計親族への支払い
003)タダより高いものはない!?
004)確定申告最終チェック
005)所得税申告書の提出でドジを踏んだ場合
006)税理士をタダで利用する方法
007)税理士のいない会社のための、税務調査対応法1
008)税理士のいない会社のための、税務調査対応法2
009)税理士のいない会社のための、税務調査対応法3
010)税理士のいない会社のための、税務調査対応法4
011)税理士のいない会社のための、税務調査対応法5
012)確定申告のチェックポイント
013)2001(H13)年度税法改定のあらまし
014)税理士法改正の裏側
015)従業員の福利厚生費1
016)従業員の福利厚生費2
017)小額訴訟のすすめ
018)天下り年収2億の怪
019)株式投資における新税制
020)ストックオプション裁判の判決
021)2003(H15)年税法改定案の読み方1
022)2003(H15)年税法改定案の読み方2
023)資本金1円会社の損と得