税理士のいない会社のための、税務調査対応法4
※文章は2000年8月〜2001年3月の法律を元に記述されています
(7)調査当日の対応
@ 調査時の姿勢
調査にあたっては、会社側は書記係を一人臨席させ、調査の記録を取るようにします。調査の経緯や調査官とのやりとり、調査官が何の書類を見て写していったかとか、争点となった事柄などを、ノ−トなどに記録しておくと後で便利ですし、調査官も会社側に逐一記録されているとなると、態度が慎重になるかも知れません。なお、書記係にも、前回書いた通りの会社側の心構えを徹底しておく必要があります。あるいは、書記係は調査官から何を聞かれても、「よく分からないので、社長(総務部長)に聞いてください。」の一点張りでいく手もあります。
調査時の答弁にあたっては、言葉を吟味しながら慎重に答弁します。的外れな返答や間違った返答は調査官に疑念をもたせるので、分からないことや即答できないことを聞かれた場合は、「調べて後日電話いたします」と答えます。
また、仮に調査官に公僕としてあるまじき非常識な言動や高圧的威圧的態度があった場合にも、会社側は感情に走らず、冷静沈着な対応が望まれます。ただし調査官のかかる言動に対しては、直ちにそれを指摘して是正を求めることです。また、テ−プレコ−ダ−のマイクを向けて「今のせりふをもう一度言ってください。」と言うのも一法ですし、一向に態度が改まらないようでしたら、その場で税務署の署長か上司(統括官)に電話をして、調査官の交替を求める手もあります。「調査自体には応じるが、この調査官は公僕としての認識も常識もないので変えてくれ。」と要求する訳です。
ただ、法人税の調査官のほとんどは、常識的であり礼儀もわきまえていますし、教育も行き届いています。したがって前記のようなことはほとんどないでしょうし、こちらもはじめから敵意を抱かないことです。しかし、向こうは税金を取りにきたのですから、うかつなことを言わぬよう慎重な対処も忘れずに。なお、相続税の調査官の一部や、法人税でも査察上がりや資料調査課上がりの調査官の一部には、権力意識を笠に着た非常識高圧的な人もいます。
A 机や金庫の中を見たがったとき
調査官のなかには、会社の金庫や机の引出し、書庫、ロッカ−、押し入れの中などを見たがる人もいない訳ではありません。これに対する会社側の対応法は二つあります。次のいずれかを、会社の好みで選んでください。
ひとつの方法としては、拒否することも当然できます。裁判所の令状のない通常の税務調査(任意調査といいます)では、会社の承諾がなければ金庫や机の引出しを開けたり、調べることはできません。
断る方法としては、「申告納税制度のもとにおける課税処分のための税務調査は、脱税行為に対する強制調査とは異なり、納税者の自己申告に対して、その適法性を確認する事後的手続きとして行われるものです。したがって、任意調査における調査官の権限は、法律的にも限定されています。質問検査権がその権限として認めているのは、申告内容に対する質問と検査であり、捜査や押収ではありません。なぜなら、質問検査権は犯罪調査のために認められた権限ではないからです。」「あなたには、当社の申告について質問し、証拠資料を検査する権限はあるが、捜査権はありません。帳簿の不明点があるならば、どこが不明で何を証明するため何を出してほしいのか具体的に言ってください。」というように対応します。
もうひとつの方法は、調査の前に金庫や机、会社の中をきれいに整理しておき、プライベ−トなものや私物など、見られたくないものは事前に自宅に持ち帰り、見みせてもかまわないものだけを社内に残しておき、もったいぶりながら見せる方法です。この方法ですと調査官に無駄な時間を使わせることができますし、悪い印象も与えないため、ベタ−かも知れません。
B 反面調査について
会社にとって、取引先や銀行に対する信用は、営業上かけがえのない財産です。調査官が取引先や銀行に出向いて当社との取引内容を調べたり(反面調査といいます)、照会文書を郵送されたりすると、その取引先に迷惑がかかるだけでなく、会社の信用にも影響し、今後の取引に差しさわりが出かねません。調査官が反面調査をするようなそぶりを見せたり、反面調査が予想されるとき、あるいは会社の了承なく反面調査が行われてしまった場合には、会社の承諾なく反面調査をしないようにクギを差す必要があります。具体的には、次のように調査官に話すべきでしょう。
「反面調査をされたりすると、当社の信用に傷がつくし、今後の取引にも影響しかねない死活問題となってしまう。もしも疑問点があるのならば、まず当社にきいていただきたい。証明書類は可能な限りお見せしましょう。反面調査は、当社にきいてもどうしても解明できない場合だけに限り、事前に当社にことわった上で行っていただきたい。」「昭和51年4月1日付で国税庁が税務署に対して出した通達の『税務運営方針』にも、『税務調査は、その公益的必要性と納税者の私的利益の保護との衡量において社会通念上相当と認められる範囲内で、納税者の理解と協力を得て行うものであることに照らし、一般の調査においては、事前通知の敢行に努め、また、現況調査は必要最小限にとどめ、反面調査は客観的にみてやむを得ないと認められる場合に限って行うこととする。』と書いてあります。反面調査は、まず当社に対する調査を行い、疑問をどうしても確認する必要がある、やむを得ない場合にだけにしていただきたい。」このように念を押しておけば、大抵の調査官は無断での反面調査は自粛してくれます。
C 帳簿書類の持ち帰り等について
調査官が、会計帳簿や得意先台帳、請求書、領収書などを持ち帰りたいと申し出る場合がよくあります。調査官としては、会社内において、社長などに注視されながら限られた時間内で調べるよりも、帳簿類を税務署に持ち帰り、ホ−ムグラウンドである自分の机の上で時間を気にせず調べたほうが効率もいいしミスも見つけやすい、あるいは部下と手分けして調べられる、反面調査もやり易いし資料箋も作り易い、と思うのでしょうか。
しかしながら、会社側としては、調査官が持ち帰りたがる理由のちょうど裏返しの理由から、帳簿類は預けない方が賢明です。任意調査における質問検査権は、税務署員に会社の帳簿類を持ち帰る権限を与えていません。調査官から「帳簿類をお預りします。」と言われて預り証を書かれると、法律上預ける義務があると錯覚してしまう会社もあります。しかし、調査官が会社の承諾なく帳簿類を持ち帰るためには、裁判所の発行する令状が必要です。任意調査では、会社の同意がなければ帳簿類を持ち帰ることはできないのです。
帳簿類持ち帰りの断り方としては、「重要なものなのでなくされては困るので。」「紛失されたりして後から数字が合わないと言われても責任は持てません。」「営業上過去の資料を調べることもよくあるので、渡すことはできません。」「ここで、私の見ている前で調査を行って頂きたい。時間は何時まででもお付き合いしますので。それとも、何か私に見られては困る理由があるのですか。」「うちの知り合いの会社で、帳簿を税務署員に渡したところ、無断で取引先に反面調査に行かれ、信用を疑われ取引先を失った会社がある。」というように話せばいいでしょう。
しかし会社によっては、調査に付き合う時間が惜しい、多少税金はくれてやってもいいから早く終わらせてほしい、という場合もあるでしょうし、そのため帳簿類を預けてもかまわない、と考える会社もあるでしょう。デメリットを承知で帳簿類を預ける場合にも、預けることは調査への格別の協力であることを恩着せがましく強調し、持ち帰らせる書類等は必要最小限のものにとどめさせ、返却については期限を定め、返却期限前であっても会社が申し出た場合には直ちに返却することを約束させ、預り証を受け取りその旨記入させることです。
また、調査官から会社の帳簿類のコピ−を求められることがよくあります。気軽に応じていると、会社のコストも気にせず何十枚ものコピ−を平気で要求してくる調査官もいます。もちろんコピ−は質問検査権の範囲外なので、自由に断ることができます。断り方としては、「取引先に迷惑をかけたくないので。」「私が税務署に行った時にも、税務署の書類をコピ−してくれますか。してくれるなら一筆書いてください。」「質問検査権にはコピ−の提出も含まれるのですか。含まれるならその旨一筆書いてください。」という調子でいいでしょう。あるいは、「5枚や10枚のコピ−ならサ−ビスしますが、それを超えたら1枚当り30円いただきます。なにしろ貧乏会社なもので。」と答える方法もありますが、これですと、調査官から「お金を払います」と言われた時には応じなければならなくなります。なお、最近は税務署からハンディコピ−を持ち込んでやってくる調査官もいるようです。
<NEXT→> |