確定申告のチェックポイント
※文章は2001年2月の法律を元に記述されています
(1)今年の主な改正点
@ 年少扶養親族の廃止
昨年分の申告において新設された年少扶養親族(16歳未満の扶養親族)の扶養控除の割増がわずか一年で廃止され、元通りの一般扶養親族として、扶養控除は38万円(同居特別障害者である扶養親族は73万円)に戻りました。朝令暮改、財務省(昨年までは大蔵省といった)のお役人さまの考えることは私共しもじもの者には理解できません。
A 青色申告特別控除の改正
事業所得または不動産賃貸所得があり、青色申告を選択している人の青色申告特別控除が改正され、控除額が最高で55万円になりました。ただし、55万円の控除を受けるためには、事業所得者ならば、正規の簿記(複式簿記)により記帳していること、さらに決算書に貸借対照表を付けていること、という二つの要件が必要です。不動産賃貸所得者ならば、その二つの要件に加えて、さらに事業的規模による不動産賃貸であることが必要です。事業的規模とは、アパ−トならば10室、貸家ならば5棟、駐車場ならば50台以上をいいますが、この要件に満たなくても、賃貸料収入や管理の実態からみて事業的規模になる場合もあります。
これを機会に複式簿記に切り替えたらいかがでしょうか。パソコンを使いなれている人で簿記2級レベルの知識があれば、難しいことはありません。パソコンの会計ソフトを使って、取引ごとに科目名と相手科目名、金額を正しく入力していれば、それだけで複式簿記の総勘定元帳と貸借対照表、損益計算書ができあがるのです。
なお、貸借対照表は付けていても簡易簿記により記帳している人の青色申告特別控除は、従来通り45万円ですし、貸借対照表を付けていない人とか、現金主義の届出をした人、または不動産賃貸をしているが前述した事業的規模に満たない人の控除も、従来通り10万円です。
もう一つ注意することは、申告期限に間に合わず期限後申告となった場合、青色申告特別控除は10万円になってしまうので、3月15日までに遅れず申告を。
B パソコンソフトウェアの償却法変更
H12年4月1日以降におけるパソコンのソフトウェアの購入費用と自己製作費用で10万円以上のものは、無形固定資産に計上して、減価償却することになりました。残存価額ゼロの定額法により耐用年数5年で減価償却しますが、複写販売用ソフトの原本と研究開発用ソフトは耐用年数が3年になります。
また、10万円以上20万円未満のものは、「一括償却資産」に計上して3年で償却することも可能です。10万円未満のものは支出時に経費処理できます。
なお、H12年3月31日までに支出した場合は従前通りです。3月までは、外部から購入ないし製作委託した20万円以上のものは耐用年数5年の繰延資産となり、20万円未満の外部購入費用は支出時の経費、自己の製作費用は金額を問わず支出時の経費にできたのです。
(2)申告にあたって、こんなミスに気をつけよう
@ 医療費控除について
医療費控除は、生計を同じくしている親族についてかかった医療費であれば、税法上の扶養控除を受けていない人の分も控除できます。共働きの夫婦で、妻が夫の配偶者控除の対象にならなくても、同一生計であれば、妻がかかった医療費についても夫の申告で医療費控除ができます。所得税は累進課税ですから、医療費控除は同一生計親族のなかで最も所得の多い人に、領収書を全部集めて受けるようにするのが有利です。
なお、同一生計とは、必ずしも一緒に暮らしていなくても定期的に仕送りをしていればよく、都会で働く息子が田舎に住む親に仕送りをしていれば、息子の申告で親の医療費を控除してよいのです。
また、通院交通費については、タクシ−代は領収書が必要ですが、電車・バス代は領収書が出ないので、便箋などにメモ書きのような形で記載すればOKです。
薬局で薬を買った場合でも医療費控除は受けられますが、薬局のレシ−トの場合、何を買ったか分からないものでは医療費控除は受けられません。薬局では薬以外に雑貨や化粧品なども売っているからです。薬局では、薬品名を書いた領収書をもらうように心がけましょう。なお、品名の書いていない薬局のレシ−トでもあきらめないでください。あなたが自分でレシ−トに薬品名を記入して提出すれば、それが明らかに間違った記入でない限り医療費控除は受けられます。
A 株の配当は、所得900万円未満の人なら申告しよう
日本にある会社から株の配当金を受け取った場合で、一つの銘柄当り年間の配当金が10万円以下(年2回配当の会社であれば、1回当りの配当金が5万円以下)の配当を少額配当といい、すでに20%の源泉税が天引きされていますので、これで完結させて申告しないことも自由です。しかしながら、株の配当は申告すれば「配当控除」という制度の適用があり、受取配当金の10%の金額(課税総所得1千万円以上の人は5%)を、納付する所得税から差し引くことができます。また、少額配当は申告しても住民税がかかりません。
そのため、配当金を含めた課税総所得金額が900万円未満の人では、20%の源泉税は取られ過ぎになり、申告すれば源泉税の還付があるかまたは納税額が減少するので、申告を選択した方が有利です。少額配当は忘れずに申告を選択してください。
なお、少額配当は申告すれば翌年の国民健保料の算定基礎になる所得に含まれますが、それを加味してもまだ有利です。組合健保や政府管掌健保ならば、保険料への跳ね返りもありません。
一銘柄当りの年間配当が10万円以下であれば、何十銘柄持っていても少額配当になり、申告するか否かは任意ですので、試算して有利ならば申告を選択してください。ただし、課税総所得900万円以上の人は、申告すると不利になりますのでご注意を。一銘柄当り年間配当10万円超の高額配当は、所得にかかわらず原則として申告義務があります。
B 退職金は申告した方が有利な場合もある
退職金については、所得税法上優遇措置があります。勤続一年当り40万円、勤続20年超の人は20年を超える一年当り70万円の、退職所得控除という非課税限度額があり、仮にこの限度額を超えても超過額の二分の一に所得税の税率を乗ずる計算式となります。中小企業の従業員ならば、この非課税限度額を超える退職金をもらえる人はほとんどいないでしょう。しかし、親方日の丸と呼ばれる職種の人々は、税金をたっぷり払うほどの退職金をもらえますし、渡り鳥天下り高級官僚と呼ばれる方々は、退職後特殊法人などに再就職を繰り返し、家が買えるほどの退職金を何度ももらえるそうです。
退職金については、所得税と住民税が源泉徴収されており、原則として申告不要です。しかしながら、退職した年に給与や年金などの退職金以外の所得が少なかった人は、申告すれば、退職所得から配偶者控除や社会保険料控除その他の所得控除を引くことができるので、退職金から天引きされた所得税が還付されることがあります。
また、源泉徴収された金額には定率減税が加味されていませんが、申告すれば、退職金の税金も含めて定率減税の適用があり、税額の20%、最高25万円の税額控除を受けられます。そのため、退職金以外の所得が少ない人は、申告したほうが有利な場合があります。なお、雇用保険は非課税ですので所得に入れません。
税金を天引きされるほどの退職金をもらった雲上のお方は、ぜひ試算して、有利ならば申告を選択しましょう。
C マイカ−の損害には雑損控除がある
マイカ−が事故や盗難で全損し、または一部損壊して修理代を払った損失があれば、雑損控除が受けられ、所得から控除できます。但し、保険での補てん額があれば損失から控除して計算します。マイカ−以外の資産でも、災害による損失や災害の原状回復費用、財産の盗難や横領による損失があれば雑損控除の対象になります。ただし、詐欺はだまされた人にも責任があるとされ適用外ですし、書画骨董や一個当り30万円超の宝石類などの「生活に通常必要でない」とされる資産の損失も対象外です。
雑損控除は、損失の金額から、所得合計額の10%を控除した金額です。損失が、火事、地震や風水害、雪やひょうなどによる災害関連支出である場合は、前記の算式の金額と、災害関連支出から5万円を控除した金額のいずれか多い方を用いることができます。
なお、所得一千万円以下の人で、住宅・家財につき価額の二分の一以上の災害損失があれば、災害減免法により税額の全部または一部が減免される制度もあり、災免法と雑損控除はいずれか有利な方を選択できます。
愛車をぶつけたり、泥棒に入られたなどの損失があれば、少しは税金が安くなることがあるのでお忘れなく。
D 介護保険料は社会保険料控除を
国民年金や厚生年金などの公的年金を受給している人は、「介護保険料」が年金から天引きされています。社会保険庁から送られる年金支給額通知のはがきに書いてありますので、確定申告にあたって社会保険料控除を忘れずに。昨年までは介護保険などありませんでしたので。
E 三千万円控除の落とし穴
マイホ−ムを売り売却益が出て、三千万円控除を受けて所得税はゼロと考えているあなた、もしも国民健保に加入していれば意外な落とし穴があります。国民健保料は前年の所得をもとに算出されますが、この所得は譲渡所得の特別控除がないものとした場合の所得なのです。そのため、三千万円控除で所得税がかからなくても、翌年の国民健保料が最高額の60万円(介護保険料を含む)に跳ね上がってしまうことが多いのです。しかし、これを免れる術はありません。
なお、組合健保や政府管掌健保の人は、保険料への影響はありませんのでご安心を。
F 青色申告特別控除の注意点
商売による事業所得があるが、不動産賃貸もしている人で、青色申告の届出をしており、かつ、不動産所得は事業的規模ではない(アパ−トなら10室、貸家なら5棟、駐車場なら50台に満たない)が黒字、一方事業所得は赤字、という人は次の点にご注意を。
前述したように、正規の簿記で記帳し貸借対照表を付ければ55万円、簡易簿記でも貸借対照表を付ければ45万円の青色申告特別控除を受けることができますが、この場合、事業所得だけでも貸借対照表を付けていれば、たとえ不動産所得に貸借対照表を付けなくても、青色申告特別控除の55万円(事業所得を複式簿記で記帳した場合)または45万円(簡易簿記の場合)を、事業的規模ではない不動産所得の方から控除してよいのです。税理士に依頼していない人はうっかりしやすいのでお間違いなく。
以上、いくつか思いついたことを書きましたが、最後にひとこと。自分で書いた申告書はそのまま提出せず、商工会議所や税理士会などが主催し各地で開かれている確定申告無料相談会に持っていき、ミスがないかチェックしてもらいましょう。素人が自力で書いた申告書は、私どもが見ると、意外なポカをしていることが多いのです。 |