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税理士のいない会社のための、税務調査対応法2

※文章は2000年8月〜2001年3月の法律を元に記述されています

(3) 税務調査の種類

税務調査には、任意調査と強制調査があります。
任意調査とは、税務署等が、納税者の提出した申告書等の適正・不適正を確認する手段として、法人税法153条や所得税法234条などに基づく質問検査権を法的根拠として行われます。日常税務調査とよばれているものは、ほとんどがこの任意調査です。
任意調査の場合、通常は税務署から事前に調査の通知がありますが、税務署側の希望する日にちに合わせる義務はなく、会社側の都合のよい日にちを選んで税務署側と日程調整をすることができます。現金商売の会社ならば、事前予告がなく、税務署がいきなり来ることがあります。まれには集団で本社や支店に同時に押しかけて来て、高圧的かつ強引に調査をしようとすることもあります(国税局の、資料調査課がこの手法を使います)。これらの抜き打ち調査の場合、会社側は都合が悪ければ日にちの変更を求めることができます。税理士のいる会社であれば、「税法は私の専門外なので、専門家である税理士の立会いのもとに調査を受けたい。それに今日は忙しく、調査に付き合う時間がない。日程は税理士に連絡して調整し、日を改めて来社されたい。」と言って断ります。税理士のいない会社であれば、「今日は仕事が忙しく、先約も入っている。当社の都合も聞いて日程調整し、後日来社されたい。本日はお断りする。」と毅然とした態度で追い返します。多忙を理由に延期を求められれば、税務署は引き下がらざるを得ません。
ただし、会社側は、日にちの変更を求めることはできますが、調査それ自体を断ると、とんでもない目にあう可能性があります。帳簿不備という理由で青色申告を取り消され、推計課税で課税されたり、特別償却や欠損金の繰越控除ができなくなったり、消費税ならば仕入税額控除を否認されたり、個人所得税ならば青色専従者給与を否認されたりします。また、実際に適用された例はまずありませんが、法律上は罰金刑や懲役刑の規定もあり、そういう意味では任意調査とは名ばかりで、実質的には間接的強制調査といえましょう。
強制調査とは、税務当局が何らかの資料収集によって、会社に多額の脱税の疑いがあるとつかんだ場合に、国税犯則取締法に基づき、裁判所の令状を持って、国税局の査察部門(いわゆるマルサ)が集団でやって来る調査です。この場合税務当局は、会社の室内や役員の自宅等の家宅捜査(ガサ入れ)も行いますし、税務当局はガサ入れの現場では、会社の役員や社員はもちろん、弁護士の立会いすら拒むことができます。場合によっては、その会社の顧問税理士の事務所まで、ガサ入れを受けます。ガサ入れにより参考となりそうなものが出てくれば、押収していきます。査察の最終目的は、脱税者の刑事告発です。

(4)調査の予告があったあとの事前準備

税務署から税務調査の予告があり、会社側と日程の調整が整い、調査日が決まった場合に、その前日までにしておく準備があります。
まず、調査を受ける場所の選定です。店舗の中とか、会社事務室の中のように、外来者や従業員の目にふれる場所や、会社の日常業務に差し障りのある場所は避けます。顧客の前での税務調査では、顧客から不信の目で見られかねませんし、従業員が出入りする場所では、税務署が従業員に話しかけて調査の糸口を探ろうとし、従業員からあらぬ不信を持たれかねません。また、会社の企業秘密や役員社員の給与の額等が従業員の目にふれるのも、好ましくはないでしょう。できる限り、会議室や応接室等で、独立した部屋を用意しましょう。
また、調査を受ける部屋はもちろんのこと、事務室や役員室、店舗等も事前に点検し、整理整頓をしておきます。取引のない銀行や証券会社のカレンダ−、マッチ、洗面所のタオル、電話帳や住所録、電話メモなど、税務署に疑念を抱かせるおそれのあるものは片付けます。また、調査に関係のない私物、個人の預金通帳、キャッシュカ−ドなども持ち帰らせ、無用な疑念を起こさせないようにします。華美な調度品や置物、絵画なども片付けておきましょう。税務署員の中には、会社の金庫の中や役員社員の机の中を見たがる人も時にはいます。裁判所の令状がない限り、プライバシ−を理由に拒絶することももちろんできますが、金庫や机の中身は事前にチェックして疑念を持たれないようにし、もったいぶりながら見せる方法もあります。いずれを取るかは社長の自由です。
また、税務署員は店舗、工場、倉庫、事務室などを見たがることもあるので、商品、製品、材料、貯蔵品、仕掛品、スクラップ等の整頓をし、固定資産台帳と現物のチェックもしておきましょう。また、従業員数と机の数、タイムカ−ドや出勤簿などのチェックをされることもあるので、事前に整備しておきましょう。
次に、帳簿類を用意し、ダンボ−ル等に入れて調査を受ける部屋に運び込んでおきます。調査の予告があった時に、調査対象の税目(法人税、消費税、所得税など)と年度を聞いておき、その分を用意します。通常は過去直近3年分を用意すれば足りますが、税務署は無申告の場合は5年、仮装隠ぺいによる脱税の場合は7年までさかのぼって調査することができます。
用意する帳簿類としては、総勘定元帳、現金出納帳、預金出納長、手形帳、棚卸表、固定資産台帳、売上帳(売掛金台帳)、仕入帳(買掛金台帳)、給与台帳、源泉徴収簿、扶養控除等申告書、年末調整資料などがあります。また、証拠書類として、売上に関する請求書控え、領収書控え、レジシ−ト、受注契約書(受注簿)、発送控え、仕入れや外注費に関する請求書、領収書、振込み控え、発注契約書(発注簿)、不動産賃貸借契約書、その他取引に関する原始帳票類があります。
なお、現事業年度の現金出納帳を見たがる税務署員もいますので、調査前日までの出納帳を作り、現金残高もきちんと合わせておきましょう。ただ、多忙でどうしても間に合わなければ、「進行事業年度はまだ申告期限が到来しておらず、調査対象外」と言って逃げる手も無くはありません。
その他、役員報酬額に係る株主総会(社員総会)議事録や取締役会議事録も用意しておきましょう。
時間に余裕があればもちろん、余裕がなくても時間を作って、できる限り上記の帳簿類を事前にチェックし、誤りがないか監査をしておきます。事前に問題点を発見しておけば、調査当日に税務署員から指摘があっても冷静な対応ができます。
また、調査当日は、あらかじめ提示するために用意した上記の帳簿類、証拠書類以外は、原則として提示しないほうが無難です。用意したもの以外の提示を求められた場合は、「ない」と言うか「探してみる」と答え、税務署員が帰った後で内容をチェックしてから、提示するかどうかを決めます。
社長と経理担当者(税理士のいる会社であれば、顧問税理士と税理士事務所の担当職員も含めて)の、事前の打合せも重要です。社長と経理担当者の返答や説明に齟齬があると、税務署員に疑念を抱かせるからです。前々期と直近年度の売上高、粗利、経費等が大幅に変動している場合は、その理由を答えられるようにしておきます。
私が顧問をしている会社であれば、税務署が社長に書かせようとする「代表者に関するお尋ね」も、社長個人のプライバシ−の面で支障のない範囲で、事前にワ−プロで作成しておきます。税務署は社長の生年月日、過去の経歴、収入、家族の氏名と年齢職業、社長の預金口座のある銀行名、資産などを書かせようとし、また、それにより社長の筆跡も知ろうとするのです。
社長の家族や親族が役員か社員になっており、会社から給与が出ている場合は、できればこれらの人にも出勤簿やタイムカ−ドを付けてもらい、過大役員報酬や架空人件費の疑いを持たれないようにします。少なくとも調査当日は出勤してもらい、架空人件費等の誤解を招かないようにします。ただ、役員であれば、たとえ非常勤であっても、経営責任や取締役会出席の対価として、過大にならない範囲内の報酬を払うことは可能です。
また、会社の従業員には、調査を受ける部屋とその周囲には、できる限り近寄らないよう話しておきます。また、税務署員から話しかけられた場合も、挨拶以外は返さず、「わかりません」「社長に聞いてください」と答えるように釘を刺しておきます。

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006)税理士をタダで利用する方法
007)税理士のいない会社のための、税務調査対応法1
008)税理士のいない会社のための、税務調査対応法2
009)税理士のいない会社のための、税務調査対応法3
010)税理士のいない会社のための、税務調査対応法4
011)税理士のいない会社のための、税務調査対応法5
012)確定申告のチェックポイント
013)2001(H13)年度税法改定のあらまし
014)税理士法改正の裏側
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