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税理士のいない会社のための、税務調査対応法1

※文章は2000年8月〜2001年3月の法律を元に記述されています

会社の社長にとって、税務署という役所に良いイメ−ジを持っている人は、まずいないでしょう。もちろん正直に申告している社長でも、です。それもそのはず、会社が提出した税務申告書や、会社の会計帳簿などのあらを探し、命の次に大事なお金を持っていってしまうのですから。地震、雷、火事、税務署は、多くの人から毛嫌いされている、といっても過言ではないでしょう。会社をつくってから最初の税務調査があるときは、心配で夜も寝付けぬ(?)社長もいるようです。もっとも税務調査の場数を踏むにつれ、また来るのか、と気にもならなくなるのですが。特に、用心棒(?)である税理士のいない会社の社長にとって、その恐怖心は察するに余りあります。
今回から数回に分けて、税理士のいない会社の社長が税務調査に臨むにあたり、注意すべきポイントについて述べていきましょう。なお、税務調査の対応法は税理士により180度異なりますので、税理士のいる会社はこの文章を参考にするのではなく,その税理士のやり方に全面的に合わせてください。税理士の方針に合わせてやらないと、税理士がへそを曲げ手を引いてしまいます。税理士には、納税者の権利の擁護をモット−にしている人もいる反面、税務署のおかげで飯が食えると恩義を感じて忠誠心を持ち、税務署に楯突くなどもってのほか、と思っている人も少なくないし、あるいは、納税者と税務署との間でいずれの側にも立たず、中立の立場に立つべきと考えている人もいるのです。特に、税務署に顔が利く、と吹聴する税理士には、税務署に逆らわず言いなりになる傾向が強いようです。そして税理士の考え方により、税務調査への対応法も全く異なるのです。

(1) どんな時に調査を受けるの?

会社の社長にとって、最初の税務調査を受ける時に例外なく考えることは、なぜうちの会社に来たのだろう、ということです。もっとも、税務署側から見れば、ある程度の売上高のある会社ならば数年ごとに調査に行くのは当たり前で、別段他意はない、となるのでしょうが……。大体において次のような会社は、税務調査を受ける確率が高いといえます。

  1. 同一規模同一地域の同業他社と比較し、不自然な数字の申告書を提出した会社。
    国税当局は業種ごとの平均的な売上総利益率や経費率を集計しており、明らかに不自然な金額の申告をした会社には、行ってみようか、となります。
  2. 過年度の自社の申告書と比較して、不自然な数字の申告書を提出した会社。
    会社の営業形態や業種・規模などに変動がない限り、粗利は毎年そう大幅に変動するものではなく、経費率も同様です。過年度の申告書と比較し、粗利が大幅に変動した、売上が大幅に下落した、経費が大幅に増えた、期末在庫商品が大幅に減少したなど大きく変動した数字があれば、本当かな、と疑われるわけです。多額の貸倒損失を計上したときも同様、本当に回収不能かと税務署は疑うわけです。
  3. 税務署が集めた資料箋と、申告内容が不一致の会社。
    税務署は、当社の取引先の会社が提出した申告書や資料箋も持っています。また、当社の取引先に税務調査に行った時も、資料を集めてくることがあります。これらの資料からみて当社の申告内容に疑念を持てば、当然調査に来ます。
  4. 過去の税務調査で、毎回不正経理が見つかる会社。
    税務署は、過去の税務調査の記録を帳面(税歴表)に付けてあります。過去の税務調査で、いつも仮装隠ぺいなど悪質な不正が見つかる会社は「循環接触法人」「継続管理対象法人」という要注意会社にランクされ、定期的に調査に来ます。税務署にとって、おいしいカモといえます。
  5. 税金の還付請求をした会社。
    消費税の本則課税の会社で、多額の設備投資などのため消費税の還付請求をした場合には、調査を受ける確率が非常に高くなります。税務署とて私たちと同様、一度手にしたお金を手放したくないのでしょうか。
  6. 税務署の内部で、調査の重点対象業種に指定された業種を営む会社。
    国税局は毎年マル秘資料として、今年はどの業種の会社に重点的に調査に行くかを決めて、傘下の税務署に指示します。好況の業種(花形産業)とか、毎年脱税の多い業種は選ばれやすくなりますが、そうでなくても増差をあげるためには、毎年重点業種を決めて同一産業に集中的に調査に行ったほうが効率が良く、こうした指定業種の集中調査が行われます。
  7. 毎年多額の利益を出している会社。
    儲かっている会社は利益を隠すだろう、と疑ってかかる訳でしょうか、定期的に調査に来やすくなります。もっとも戦後最悪の平成大不況のなか、全国の法人の7割は赤字の申告書を出しており、黒字申告の会社でも銀行対策とか入札対策で粉飾をしている会社があるため、実際の赤字会社の割合はもっと多いでしょう。少額でも黒字申告をすると調査を受けやすくなります。仮に300万円の赤字会社に調査に行き100万円の増差をみつけたところで、繰越欠損金が減るだけで一銭の法人税も取れませんが、たとえ1万円でも黒字会社ならば、いくらかの非違を見つければ即税収に結びつく訳です。もっとも赤字会社でも消費税の非違があればムダ足にはならず、税務署としては行った甲斐があったことになります。
  8. 税務申告書にミスがある会社。
    税務申告書に見ただけですぐに分かる計算ミスがあり追徴税金が取れるならば、おいしいカモとして調査に来ます。もっとも、過少申告の場合は税務署も気付くのですが、なぜか不思議にも過大申告をして税金を納めすぎたミスは見逃してしまうようです。
  9. 長期間調査に来ていない会社。
    長い間調査に来ていない場合は、そろそろ行ってみようか、となることもあります。なお、消費税の免税業者になれるくらいの売上しかない会社ならば、長期間調査がなかったとしても、よほど不自然な申告書を出さない限りめったに調査には来ません。税務署としては、わずかな売上しかない会社ならば、非違を見つけたとしても大した金額にはならず、調査に出向いたところで日当割れになると考えるのでしょうか。
    調査の当日には、社長から税務署員に「なぜうちの会社が調査対象に選ばれたのか」と調査の理由を聞いてみてもいいでしょう。ただし、税務署員は決して本当のことは言いません。「長い間調査に来ていませんでしたから」とか「上司に行けと言われましたので」などとお茶をにごされてしまいます。

(2) 調査の事前予告

税務調査に来る時は、事前に調査日時の予告があるのが普通です。税務署から調査の予告があった場合には、必ずしも税務署の都合に合わせる必要はありません。会社側にとって、税務署の予告した日には他に予定が入っており都合が悪かったり、会社の繁忙期にあたり調査に応ずる時間がない場合には、会社の都合で自由に日にちを変えられます。税務署員と打ち合わせて、お互いに都合のよい日にちを決めてください。税務署は3〜4週間くらいならば気持ちよく日にちの繰り延べに応じてくれますし、季節商売の会社で繁忙期にあたる場合は、2〜3ヶ月の延期に応じることもあります。
小売業や飲食店、風俗営業など現金商売の会社の場合には、調査の予告がなく、いきなり調査に来ることがあります。まれには現金商売以外の業種の会社にも、抜き打ちで来ることがあります。調査の予告をしたら、日銭や裏帳簿などを隠されてしまうと思うのでしょうか。
抜き打ち調査があった場合、まず身分証明書の提示を求め、調査に来た税務署員の氏名を書き写します。名刺もできればもらいますが、悪用を恐れてか名刺を渡さない税務署員も少なくありません。次に、それが通常の任意調査なのか、裁判所の令状を持ってきた強制調査(査察)なのかを確認します。裁判所の令状がある査察とは、税務署が何らかの方法で脱税のしっぽをつかみ、裁判所に令状の請求をしてから集団で来る強制調査で、この場合は会社は断れません。しかし通常の任意調査の場合は、税務署がいきなり来た当日に、社長や経理責任者はすでに他の予定が入っていて都合が悪ければ、自由に断ることができます。「今日は他に予定があり都合が悪いので、後日日程を打ち合わせた上で再度来社ください」と言って帰ってもらえばよいのです。もっとも、税務署員とて子供の使いではありませんから、一筋縄では引き下がりません。「ちょっとでいいですから」とか、「社長はいらっしゃらなくてもかまいません」などと食い下がります。しかし会社が強く延期を求めて譲らなければ、それ以上手の打ちようがありません。税務署員がどうしても帰らなければ、「職権乱用になりますよ」と言えば必ず帰ります。もしもそれでも帰らなければ不法侵入の現行犯として110番すればよいのですが、そんなドジな税務署員はいません。なお、抜き打ちの任意調査で日にちの変更を求めるためには、多忙とか、予定が入っているなどの正当理由が必要です。暇があるにもかかわらず、事前予告がないということだけをもって調査の拒否はできないとするのが判例の傾向です。
抜き打ち調査に来た税務署員とは、その後電話で日程調整をして調査の日にちを決めればよいのですが、抜き打ち調査で追い返されたことを根に持ち、綿密な調査をして報復を、と考える税務署員がいないとも限りません。そのためには、脱税など税務署員に付け込まれるような弱みを決して作らないことです。
なお、税務署は、多額の増差が取れるかも知れない、と考える会社には、8月から12月までに来ることが多いようです。この間にあげた成績は個々の税務署員の査定に直接影響するから、目の色を変えて来ます。次に1月から3月までも、比較的増差が取れそうな会社に来ます。ただ、個人所得税の確定申告時期は、税理士が調査の延期を求めてくるため調査に来にくいでしょう。4月以降6月までは、とりあえず行ってみようか、という程度の会社に来ることが多いようです。税務署員は2〜3年の周期で毎年7月に人事異動があるため、4月以降はいくら成績をあげても人事異動で他の税務署に配置転換になってしまったら、手柄が消えてしまうと思うからでしょうか。

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