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確定申告最終チェック

※文章は2000年2月の法律を元に記述されています

いよいよ個人所得税の確定申告の受け付けが開始されました。申告期限は3月15日までですが、今回は、今年の確定申告から適用される所得税の主要な改正点と、税理士に依頼していない人が申告にあたって注意していただきたい事項をいくつか述べることとします。

(1)今年の主な改正点
  1. 特定扶養親族(S52年1月2日〜S59年1月1日までに生まれた扶養親族)の扶養控除が増額され、63万円(同居特別障害者である特定扶養親族は98万円)になりました。
  2. 年少扶養親族(S59年1月2日以後に生まれた扶養親族)の扶養控除が新設され、48万円(同居特別障害者である年少扶養親族は83万円)になりました。ただし、年少扶養親族の割増は今年の申告1年だけで消滅し、来年の申告では元の38万円に戻りそうです。朝令暮改、おカミは何を考えたやら。
  3. 所得税の最高税率が、課税所得1,800万円超の人の37パ−セントで頭打ちになります。昨年の申告までは、最高税率は所得3,000万円超で50パ−セントでしたから、金持ち減税と呼ぶべきか。
  4. 定率減税として、所得税額の20パ−セントの税額控除による減税があります。ただし、最高でも25万円の控除で頭打ちです。
  5. 住宅借入金控除(従来の住宅取得控除)が拡大され、借入金の限度は5,000万円まで、控除期間は従来の6年から15年に延長されました。なお、控除率は低くなりましたが、土地部分の借入金もOKとなったため、控除額は増えるケ−スもありそう。控除期間の延長で、利用者はかなりの減税になります。
  6. 青色申告の事業所得者がH11年4月1日以降に取得した、一台あたり100万円以下のパソコン等の特定情報通信機器は、全額償却できます。つまり、減価償却資産に計上せず、全額H11年の償却費としてよい、ということ。なお、不動産所得者や、事業所得者でも白色申告の人には適用がありませんのでご注意を。
  7. H11年以降事業供用した資産については、取得時の経費として処理できる金額が、従来の20万円未満から10万円未満に変更されました。したがって10万円以上の資産は耐用年数に応じて減価償却することとなりますが、20万円未満のものについては、資産ごとに選択して一括合算し、「一括償却資産」として3分の1ずつ3年間で全額償却ができることになりました。なんでこんな面倒なことをするのか、この改正(改悪)でいかほどの税収が得られるのでしょうか。なお、繰延資産については、従来通り20万円未満のものは支出時の経費にできます。

(2)事業をしている人、こんなミスに注意

  1. 店舗(事務所)と自宅が同じ建物である人、事業用部分と居住用部分の経費按分計算を抜かりなくしていますか?

    …………賃借建物の支払家賃とか、電話代や水道光熱費くらいは事業用部分を見積もり経費に入れていても、建物を所有している場合、減価償却費とか取得のための銀行等借入金利子、固定資産税、火災保険料等を入れ忘れている人も見受けられます。ご注意を。なお、事業用部分と家庭用部分の按分は、減価償却や借入金利子、固定資産税等は建物利用の面積比率で行いますが、電話代や電気代などは面積按分ではなく、実際の使用量を合理的に見積もりましょう。その方が有利な場合が多いですよ。
  2. 建物の減価償却費の計算において、電気設備、給排水設備、衛生設備、ガス設備、冷暖房空調設備、その他の建物付属設備の取得価格を、建物本体の取得価格と区分せず、すべて建物本体に合算し、建物の耐用年数で減価償却している。 

    …………建物付属設備は建物本体よりも減価償却の耐用年数がずっと短い。すなわち、区分すれば減価償却費が増えて有利です。しかも建物付属設備は、H10年4月以降に取得したものでも、減価償却方法の届出書を定められた期限までに出せば、有利な定率法で償却できます。建物本体は、H10年4月以降に取得したものは不利な定額法になってしまいます。(H10年3月以前取得ならば建物でも定率法の選択が可能。)こんなドジを踏まないでください。
  3. 事業用銀行預金の受取利息を、事業の収入金額に合算して申告している。 

    …………無料相談会で見かけた例です。「預金利息は2割の税金が天引きされて課税関係が終わっているため、申告不用ですよ。」とアドバイスしたところ、その人からは「バカ、税務署でこうしろと言われたんだ。」と食ってかかられました。どんな新米の税務署員でも、そんなこと言うはずはないじゃないの。
  4. 事業税を経費に入れていない。

    …………所得税や住民税は事業の経費にはなりません。そのためか、事業税も経費にならない、と勘違いしている人も時々見かけます。事業税(県税のひとつです)はもちろん経費に認められます。なお、この他に事業用資産に係る不動産所得税や登録免許税、登記費用なども経費になります。
  5. 自店の商品の自家消費分を売上として計上しなかったり、過大計上したり、あるいは知人等への商品の低額譲渡を、その低額な受取金額で売上計上している。 

    …………商品の自家消費分は、その商品の仕入れ値か、または通常の売値の70パ−セントの金額の、いずれか高いほうの金額で売上計上します。知人等への低額譲渡も、通常売値の70パ−セントと実際売値との差額を売上に追加計上します。ただし、自家労賃の計上は不要です。大工が自分の家を建築した場合でも、事業主の自分自身の手間賃を売上に入れる必要はなく、材料代や外注費、従業員賃金等のかかった経費と同額を売上計上すればいいのです。また、バ−ゲンによる特売や、季節ものの売れ残り商品の処分などは、低額譲渡にはなりません。そのほか、顧客などに無料で配るサンプル商品は、見本品費または広告宣伝費として経費になります。従業員に時たま配る少額の自店商品も、厚生費として経費になります。ただし、高額なものは給与として源泉税の徴収が必要。

  6. 融資を受ける時に保証協会に支払う保証料を、支出時の経費としてしまう。 

    …………時々見かけるミスです。いったんは繰延資産(長期前払費用)に計上し、借入期間に応じて月割り償却して経費にします。ただし、20万円未満の場合は、小額繰延資産として全額支出時の経費になりますし、借入期間が1年未満の場合も全額支出時の経費となります。
  7. 消費税の課税業者が、事業用の車の下取り代金を、消費税の課税売上に入れていない。 

    …………消費税の課税業者(2年前に消費税のかかる売上が3,000万円超の人、または課税業者選択届を出した人)ならば、事業用固定資産の譲渡代金も消費税の課税売上に含めます。店舗や事務所の建物の譲渡代金も同様です。(ただし、土地の譲渡代金は消費税の非課税取引となります。)それが嫌ならば、建物を取り壊して土地だけ売るか、または建物を、居住用(自己の居住用か居住用貸家いずれでも)に一定期間使用した後で売れば、消費税が非課税となります。なお、消費税の本則課税業者ならば、車など事業用固定資産を購入すれば仕入税額控除が受けられ、納付する消費税から控除できます。
  8. 毎年黒字申告の人で、減価償却は定率法を選択した方が有利であるにもかかわらず、不利な定額法で申告している。 

    …………別にミスではありませんが、減価償却は、通常ならば初期に多額の償却費が計上できる定率法が有利。今年3月の申告には原則間に合いませんが、今年の3月15日までに減価償却方法変更届を出せば、来年3月の申告では定率法に変更できます。(H11年新規開業の人や、今まで所有したことがない新たな種類の資産を取得した場合は、これからでも確定申告期限までに届け出れば、定率法が間に合います。)あなたが黒字申告ならば、定率法と定額法いずれが有利か試算して、定率法が得ならば届出を出しましょう。個人事業者が定率法を選択するならば、必ず届出が必要で、届出がなければ定額法になります。なお、取得後相当年数が経過した資産の場合は、逆に定額法が有利なことがありますから、届出の前に必ず試算してください。(前述しましたが、H10年4月以降取得の建物は定額法のみとなり、定率法は使えません。)
  9. 青色申告の事業所得者で、貸借対照表(青色決算書の4ペ−ジ目)を記入せず、青色申告特別控除を10万円しか受けていない。 

    …………これも別にミスではありませんが、なんとももったいない。貸借対照表を記載するだけで、青色申告控除が10万円から45万円にアップするのです。所得税と住民税を合計した税率が3割の人ならば、105,000円の節税になります。貸借対照表の記載など、コツさえつかめば朝飯前。食わず嫌いは大損です。報道によると来年H13年3月の申告では、青色申告特別控除が55万円に増える可能性が大。(ただし、55万円の控除は、貸借対照表の記載のほか、複式簿記の記帳が要件になりそう。)さっそくやって、45万円の控除を受けましょう。なお、不動産所得者(不動産の賃貸収入で申告する人)が45万円の青色申告控除を受けるためには、事業的規模で不動産賃貸を営んでいることが要件。貸家なら5棟、アパ−トなら10室、駐車場なら50台が必要というのが形式基準ですが、必ずしもこの基準に満たなくても、賃料収入や管理の実態等、その実質で事業的規模ならばOK。事業税が課されていることも事業的規模のひとつの目安にはなりましょう。事業的規模の不動産所得者は、この他に、事前に届出をすれば青色専従者給与を払うこともできます。

以上、いくつか思いついたことを書きましたが、前記9項目のうち6項目は、切り口は違いますが、税務署の「取扱注意」の内部研修資料にも同様の趣旨の記載があります。相手も知っているのです。
最後にひとこと。有効な節税策は確定申告時期になってからあわてても手遅れです。普段の勉強が欠かせないことも知っておいてください。

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001)年末調整あれこれ
002)同一生計親族への支払い
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004)確定申告最終チェック
005)所得税申告書の提出でドジを踏んだ場合
006)税理士をタダで利用する方法
007)税理士のいない会社のための、税務調査対応法1
008)税理士のいない会社のための、税務調査対応法2
009)税理士のいない会社のための、税務調査対応法3
010)税理士のいない会社のための、税務調査対応法4
011)税理士のいない会社のための、税務調査対応法5
012)確定申告のチェックポイント
013)2001(H13)年度税法改定のあらまし
014)税理士法改正の裏側
015)従業員の福利厚生費1
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017)小額訴訟のすすめ
018)天下り年収2億の怪
019)株式投資における新税制
020)ストックオプション裁判の判決
021)2003(H15)年税法改定案の読み方1
022)2003(H15)年税法改定案の読み方2
023)資本金1円会社の損と得